チェアサイドにおけるマイクロスコープ臨床の応用範囲


平田哲也/中村隆志

大阪大学大学院歯学研究科統合機能口腔科学専攻顎口腔機能再建学講座顎咬合学分野
大阪府吹田市山田丘1-8


はじめに

 近年、審美修復材料が飛躍的に開発され、歯冠補綴物は約20倍の実体頴微鏡下でほほすべての技工過程が行なわれるようになり、審美歯科修復も人工美から自然美を追い求めることが可能な時代になってきた。また、補綴物と歯周組織との調和も十分に考慮されるようになってさた。しかし、いまだに支台歯形成や調整は、6〜8倍の(拡大鏡、ルーペ、図1)やマイクロスコープ下で行なわれている。
 実体顕微鏡は解剖、病理、技工の分野では早くから導入されていた。しかしながら、チェアサイドで用いられるマイクロスコープ(手術用実体顕微鏡、図2〜4)の歯科への応用は日本では遅く、約7年の歴史しか有しない。韓国で始まり、ヨーロッパ、アメリカ、再びヨーロッパを経て日本に入ってきたチェアサイドにおけるマイクロスコープ臨床は、ペリオやエンド分野での報告がその大部分を占める。
 本稿では、補綴分野でも十分にマイクロスコープ臨床と言える16〜20倍に拡大された環境下での支台歯形成や、補綴物調整の可能性について報告する。

T.Microscope Assisted Precision Dentistryへの道のり
 支台歯と補綴物の適合が悪いと審美的に好ましくないだけでなく、バクテリアプラークの集積を助長する。バクテリアプラークは歯肉炎や歯周炎を引さ起こす。また、辺縁の不適合を隠すためにマージンを歯肉縁下深く設定すれば、印象精度が低下し、それに伴う補綴物の不適合や不自然なカントゥア、または合着セメントの残存が生じ、最後には歯肉の退縮が惹起され不適合なマージンが露出する。
 他の分野に比べて一見簡単に導入できそうな補綴分野への臨床応用は、残念ながら長期間ルーペやマイクロスコープによる弱拡大術野下(6〜8倍)での隠床に甘んじてきた。そのため、従来肉眼で行なってきた支台歯形成、適合調整において、ペリオやエンドほどの大きな差が認められていなかった。
 第一の理由は、歯科医師のマイクロ技工への盲信である。高倍率の実体顕微鏡下で多大な努力を費やしても、遊離エナメル質が残存していたり、マージンが不規則に形成されていては限界がある。第二の理由は、肉眼で用いられてきたインスツルメントを流用してきたことである。
 顕微鏡下で使用するにはエクストラファインのダイヤモンドバー(松風、SF102CR)でも粒子が租らく(図5)、支台歯に深く不規則な傷をつけてしまう。16、20倍に拡大された術野ではタービンの軸振れは非常に大きく(図6)、マイクロモーターでも補えない(図7)。刃幅1mm以下のチゼル(図8)での全周形成は、多大な時間と労力そしてテクニックを必要とする。
 結果、予後、患者の不快感において、非常に大きな差が認められるペリオ・エンド分野でのマイクロスコープ臨床は、すでに基礎が確立され、現在は次々と改良テクニックが披露されている段階である。またそれに必要な器具も、医科の流用の時代を経て歯科専用器具が開発され、改良が進んでいる。さらには、トレーニングコースも各国・各地で受講できるといった恵まれた環境にある。

  U.トゥースプレーニングバーの応用とマイクロフィニッシングバーの開発
 トゥースプレーニングバー(東京歯材社)は、プ
レーニングすなわちスケーリング後の粗造な根面を滑沢にするタービン用のバーである(図9)。天然歯に限り、支台歯の軸面形成に有効なことが判明した。図10〜17に、各種形成方法による天然歯形成面写真とSEM写真像を示す。
 自然美獲得に有効なオールセラミック・クラウンには、均一なショルダー形成が必要である。トゥースプレーニングバーには5形態あるが、ショルダーおよびベベルドショルダー形成には不向きであるので、筆者らはマイクロフィニッシングバーの開発に着手した(図18、19)
 図20はエクストラファインのダイヤモンドバーを5倍速コントラとマイクロモーターに装着して形成した形成面写真を、図21はマイクロフィニッシングバーをタービンに装着して形成した形成面写真を示す。

V.ビジュアルガイダンス
 脳シナプスへの情報伝達量・スピードは、体感感覚と視覚とでは非常に異なる。人がもっとも精密な作業を行なうには、体感感覚によって手指を動かすのではなく、体感感覚よりも優れている視覚による情報をもとに手指を動かすビジュアルガイダンスが必要である。
 長年手指の感覚に頼った診療を行なっていると、ビジュアルガイダンスの獲得に時間と適切なトレーニングを必要とする。トレーニングとしては、手指の感覚に頼っていては実行不可能な細かな作業を精密にこなすことが推奨されている。ビジュアルガイダンスは、マイクロフィニッシングバーによる形成にも必要である。

W.形成前準備
 
理想的な支台歯形成を行なうには、セメント・エナメル・ジャンクション(CEJ)を超えるカリエスを形成前準備として、修復する必要がある。
 図22、23では、支台歯遠心歯頸部にカリエスが認められる。まず、カリエスより径の小さいバーを5倍速コントラとマイクロモーターに装着して、低圧下で、余分な歯質を損なうことなく、また周囲エナメル質に亀裂を発生させることなく形成する。
 次いで、超音波スケーラーにダイヤモンドチップを装着してカリエスのみを削去する。う蝕検知液を顕微鏡下で使用するのは当然である。エッチングおよびボンディング時に付属の筆やスポンジを用いると、不必要な部分まで酸処理したり、ボンディング剤による約50μmの段差をつくってしまうので注意が必要である(図24、25)
 コンポジットレジンの種類によっては、顕微鏡の光源により硬化するレジンがあるので、オレンジフィルターを使用する。オレンジフィルターを内蔵している手術用顕微鏡もある。

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